言葉の資産集に「率先垂範」という言葉を置いている。リーダーの条件を一語で言え、と問われたら、私はこれを選ぶ。
辞書をたどると、率先は『史記』、垂範は『宋書』に由来するとされる。二つの古典から一語ずつ持ち寄った合成語で、意味は「人の先頭に立って行動し、手本を示すこと」。二千年前から、リーダーの定義は変わっていないらしい。
ただ、私にとってこの言葉の源流は、古典ではない。ある上司である。
怒りの8箇条
昔、自分の上に立つ人が、まったく自分で調整をせず、決断もしない時期があった。方針は出ない。それでも仕事は降ってくる。あの頃の私は、相当に怒っていた。そして、怒りにまかせて、この言葉を箇条書きに整理した。2019年の春、深夜のツイートである。
率先垂範できない人の特徴
— 近藤雄貴 (KONDO Yuki) (@konpan) April 13, 2019
・方針を出さない
・計画を作成しない
・作業や資料の枠組みや資料のサンプル、作業事例を出さない
・他人には口頭でしか指示を出さない
・具体がない
・次のアクションが明確でないフワッとした指示を出す
・中途半端に手を加え論理を破綻させる
・長いものにまかれる
投稿には、続きがあった。1分後、自分にリプライを重ねている。
そして、1番は、
— 近藤雄貴 (KONDO Yuki) (@konpan) April 13, 2019
・自らの信念がない
さらに数分のあいだに「目的がわからない指示の出し方をする」「決断を先送りにする」と付け足して、締めて11箇条。よほど腹に据えかねていたのだと思う。
7年前の自分の投稿を発掘して、読み返した。怒りが、そのまま残っていた。しかし、いま読むと気づくことがある。この11の「ない」は、裏返すとそのまま、リーダーの仕事の定義になっているのだ。方針を出す。計画を作る。枠組みとサンプルを示す。文字で指示する。具体で語る。次のアクションを明確にする。決断を先送りにしない。そして、当時の自分が「1番は」と書いたとおり、その全部の底に信念を置く。方針も、決断も、先頭に立つ足も、信念の上にしか載らない。反面教師というのは、最悪の教材のようでいて、実は最高の教材である。何をすべきかは、できていない人が一番はっきり教えてくれる。
怒りが、役目に変わる
その半年後の投稿も見つけた。
人は噂とか雰囲気とか空気感とかに簡単に飲まれる。停滞する。停滞する空気感をぶち壊し続け、危機感を醸成し、率先垂範で引っ張り続けるのが俺の役目だ。
— 近藤雄貴 (KONDO Yuki) (@konpan) October 16, 2019
半年で、言葉の向きが変わっている。春には他人への怒りだったものが、秋には自分の役割の定義になっている。誰かを批判するための物差しは、使っているうちに、自分を測る物差しに変わる。言葉というのは、そういう危険な道具である。人に向けて研いだ刃は、最後は必ず自分に向く。
ホワイトボードの前で
いまの私は、トラブル対応やレビュー対応で陣頭指揮を取る立場にいる。先日も、20人規模でホワイトボードの前に集まり、喧々囂々の議論をした。お客様がいる日もあれば、プロジェクトメンバーだけの日もある。そういう場で私がやっていることは、結局、あの11箇条の裏返しだ。方針を書く。枠を書く。次のアクションを書く。口頭で済ませず、ホワイトボードに残す。
うまくできている、と言い切るつもりはない。11箇条は、いまも自分への問いとして機能している。今日の自分は方針を出したか。具体で語ったか。決断を先送りにしなかったか。7年前の怒れる自分が、いまの自分の検品係をやってくれている。
基本、と言い切るまで
発掘した中で、一番新しいものはこれだった。
リーダは率先垂範こそ基本。
— 近藤雄貴 (KONDO Yuki) (@konpan) March 18, 2023
2019年に11行あった怒りが、2023年には一行になっている。説明も、箇条書きも、もう要らない。怒りから始まった言葉が、7年かけて、ただの基本になった。言葉が自分に染み込むというのは、たぶん、文が短くなっていくことなのだと思う。
言葉の源流をたどると、古典より手前に、自分の現場がある。率先垂範の源流は『史記』でも『宋書』でもなく、あの日、方針の出ない現場で怒っていた深夜の自分である。あなたの大事にしている言葉にも、きっと、生まれた現場がある。
この4文字は、Tシャツになりました。先頭に立つ日の一枚に。 → suzuriショップ「konpan.jp」