言葉の資産集に「量で凌駕」という言葉を置いている。いまの私の合言葉であり、自分自身を鼓舞するために、何度もこの4文字をイメージし、8文字を唱えている。
もともとは「量が質を生む」という、どこにでもある格言だった。それが20年かけて、自分の4文字に縮まった。今回は、その縮まっていく過程の話をする。
源流は、筑後弁で始まっている
過去の自分のポストを掘ると、最古の記録は2010年だった。
とりあえず、今は量をこなす時期ったい!
— 近藤雄貴 (KONDO Yuki) (@konpan) February 26, 2010
社会人になって間もない頃である。語尾が筑後弁なところに、当時の若さが出ている。このときはまだ「量をこなす」は借り物の心構えで、確信ではなかった。翌年には「量が質を生むともいいますし」と、伝聞の形で書いている。「ともいいますし」。まだ人の言葉だったのだ。
AIの本質だと、100回書いた
言葉が自分に張り付いたのは、2017年から2019年にかけてだった。この時期の私はNewsPicksでニュースにコメントをつけていて、AIの記事を見るたびに、ほとんど同じことを書いている。「AIの本質は、圧倒的な量をこなすことによる質への転換だ」。掘り返すと、この趣旨のコメントが20回以上出てきた。囲碁のAIにも、自動運転にも、将棋にも、同じ補助線を引いている。
面白いのは、その時期の自分がこう書いていることだ。
最近、圧倒的な量が質を生むってよく見る。量こなせサインかな。
— 近藤雄貴 (KONDO Yuki) (@konpan) June 30, 2018
機械の本質として繰り返し書いているうちに、言葉の矛先が自分に向き始めている。写真家の展示で圧倒的な枚数を前に「畏怖が生まれる」と書いたのもこの頃だ。人に向けて研いだ言葉が自分に返ってくる構図は、率先垂範の回とまったく同じである。どうやら言葉というものは、書いた回数だけ、自分への効き目が増すらしい。
伝聞が、実感に変わる
圧倒的な量をこなして、質に転換し始めてる。積み上げるって面白い。
— 近藤雄貴 (KONDO Yuki) (@konpan) January 10, 2022
2022年、ついに「ともいいますし」が消えた。主語が自分になり、現在進行形になっている。発信を積み上げ、現場で判断を積み上げ、量が質に変わる感覚を自分の身体で確かめた後の文章だ。12年かかっている。格言が実感になるまでの時間としては、そんなものかもしれない。
いまの現場でも、この言葉は現役だ。
リーダーシップを磨く1番の方法は、判断の数を増やすこと。高速で判断し続ければ、量が質を生み出す。
— 近藤雄貴 (KONDO Yuki) (@konpan) September 5, 2025
良い判断、上手い判断を1回するより、拙くても100回判断して100回結果を見る方が、確実に上達する。トラブル対応も、レビューも、結局は場数である。『世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか?』の紹介でも書いたが、考える量を圧倒的に増やす。世界で戦う人の基本も、やはり、量なのだ。
そして、4文字になった
2026年、この言葉は「量で凌駕」という4文字になった。
量が質を生む。
— 近藤雄貴 (KONDO Yuki) (@konpan) April 27, 2026
量で凌駕する。
いまは自分自身を鼓舞するために「量で凌駕」と言っている。説明はもう要らない。11箇条が一行になった率先垂範と同じで、言葉が自分に染み込むと、文はどんどん短くなる。
もうひとつ、この言葉には後日談がある。「AIの本質は量が質を生むこと」と10年前から書き続けてきた私は、いま、そのAIと組んで仕事をしている。生成AIの活用のコツは、働かせ続けることだと実感している。人間は寝るが、AIは量をこなし続けられる。10年前に他人事として書いた機械の本質が、いまは自分の仕事の相棒の説明書になった。伏線を回収するのに、10年かかった。
天才たちも、量をこなしている
結果を出す人は、必ず量をこなしている。自分の20年を掘り終えたあと、ふと気になって、私が好きな人たちの「量」も調べてみた。
まず、野球とサッカー。松井秀喜さんは巨人入団のとき、長嶋茂雄監督と「3年計画、千日の素振り」を約束し、ボールを打たない素振りだけの夜を、監督の自宅の地下室でも千日重ねた。本田圭佑選手は小学校の卒業文集に「世界一になるには、世界一練習しないとダメだ」と書き、ガンバ大阪のユースに昇格できなかった挫折を挟んでも、その言葉どおり練習を積んで本当に世界へ出た。
次に、発明と科学。エジソンは電球のフィラメント探しで、竹にたどり着くまでに6,000種もの植物素材を試したといわれる。アインシュタインは生涯に300本を超える科学論文を発表していて、相対性理論のあの数本は、300本という量の中から生まれている。
最後に、芸術。ピカソはギネス世界記録に「最も多作な画家」として載っていて、絵画だけで約13,500点、版画や挿絵まで含めると約147,800点の作品を残した。レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿は、現存するだけで約7,200ページある。500年残る天才の頭の中は、紙の量でできていた。
天才と呼ばれる人ほど、量の人である。調べるほどに、20年かけてたどり着いた自分の4文字が、間違っていなかったと思えてくる。
言葉の源流をたどると、今回もまた、辞書ではなく自分の現場に行き着いた。この4文字の中には、筑後弁の「今は量をこなす時期ったい!」から始まる20年分の量が、ぎゅっと詰まっている。
量で凌駕!
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