Column

破壊的な質問力

第5回 ・ 2026年9月27日

言葉の資産集に「破壊的な質問力」という言葉を入れている。良い質問は一撃で場の前提を壊し、議論を前に進める。そういう意味で使っている。

物騒な形容詞だと自分でも思う。だが、壊しているのは人ではない。壊すのは、その場にはびこっている前提のほうだ。今回は、この物騒な言葉の源流をたどる。

武器が質問しかなかった

2009年から2026年7月までのXの過去投稿を振り返ると、質問という言葉が最初にまとまって現れるのは、社会人になった2009年である。社会人に必要な力を列挙したリストに「質問力」と書き、秋には「本社に行って質問力を養った」と書いている。新人の私には、経験も、技術も、実績もなかった。会議で出せるものが質問しかなかったのだ。

同じ年の暮れに、論文の受け売りをひとつ書き留めている。質問は分からない人がするものではなく、分かる人ができるものである、と。その2週間後、受け売りが自分の言葉に変わった。

17年前の一行だが、いまでもこの通りだと思っている。何を聞くかで、その人がどこまで考えているかが露呈する。質問は攻撃の道具である前に、まず自己紹介なのだ。

100回のなぜ

質問が前提を壊す道具だと確信したのは、SEの現場で「なぜ」を重ねる仕事を続けたからだ。いわゆるなぜなぜ分析である。トラブルが起きるたび、なぜを繰り返して真因まで潜る。レビューでなぜなぜを問い続けて、設計の穴を塞ぐ。若手のなぜなぜ分析を添削する「なぜなぜ添削マン」を名乗っていた時期もある。

この職業病が、現場の外で火を噴いたことがある。自宅を建てているときに、ハウスメーカー側でトラブルが起きた。

この時は、最新の設計図面ではなく、古い設計図面で鋼管杭(家を地面の下で支える鉄の杭)が打たれたという内容だった。事件である。

2時間以上、質問だけをし続けた。責めたのではない。「対策します」という言葉の前提を一つずつ壊して、何が起きて、どこで検知できず、次はどう防ぐのかを、相手と一緒に組み立て直した。前提が壊れた場所から、議論は前に進み始める。

相手から見れば、2時間の質問は詰問されているのと同義だったかもしれない。それでも、問い続けたのは、相手を追い詰めたかったからではない。同じ悲劇、同じ被害を被る人を減らしたいという一心である。質問は詰問と違い、答える側を同じ立場に立たせる。同じ船に乗せることができる。詰問は目の前の相手に向かい、質問はまだ見ぬ次の誰かに向かう。

使える問いの型

型もある。2020年に自分で整理した、問題発見のための問いのリストだ。

なぜなぜが前提を壊す問いだとすれば、前提の扱い方を変えた問いもある。昔から使っている問いが、他に二つある。ひとつは「他には?」。レビューや1on1で、答えが1つ出たときに使う。出てきた答えを一度受け止めてから他には?と重ねると、考えの浅い層が剥がれて、二層目が出てくる。

もうひとつは「ここは無人島です。さぁて何をします?」。部下が指示待ちになったときに使う。自分で考えない部下に前提ごと場面を変えて渡す問いで、答えではなく考え始める瞬間をつくりたいときに出す、手持ちの引き出しの1つだ。

いまサッカー日本代表を率いる森保監督が、対話を必ず相手への質問で始めることをテレビで知って、メモしたのは2016年である。良い質問は、立場が上がるほど効く。

問いを立てる人だけが残る

2022年には、「問いを立てる」ことが物事を進める上で最も重要だと書いた。

2023年にGPT-4に衝撃を受けたとき、私は「問いを立てられるかが差になる」と書いた。

3年経って、その通りになっている。答えはAIがいくらでも出してくれる。だからこそ、出てきた答えの前提に違和感を覚え、一撃で壊し、次の問いを立てられる人が強い。

2022年に書いたときより、いまのほうがこの言葉は切実だ。

言葉の源流をたどると、今回もまた現場に行き着いた。武器が質問しかなかった新人が、なぜを100回重ねる仕事で言葉を研ぎ、破壊的な質問力という物騒な言葉を資産集に入れるに至った。壊すのは前提、進めるのは議論。質問は、いまも私を表現している。

Share note

← コラム一覧へ戻る